NRK活動報告書

更新は年に数回

083:NO.1

寮風呂がない日の寮生の選択肢は、
1.銭湯に行く(多数派)
2・入らない(この状態を寮生用語で「くさ子」と呼ぶ。)
3・水風呂
の3つ。
銭湯は好きだけど、貧乏学生にとって一回420円の風呂代は高い。回数券買っても大きな出費なことには変わりない。
で、寮風呂のボイラーが稼動しない日でもとりあえず水は出るので、そこに自分でお湯持ち込んで使ったり、水だけで済ませたりした。
夏場の暑い時期なんかは逆にみんな水風呂で涼んだりしてたもんだ。
が、さすがに涼しくなってくると1人また1人と銭湯へとシフトしていく。
夏休みが終わる頃にはお湯が出ない日の梅の湯(寮風呂の通称)はすっかり寂しくなり、季節の移ろいを感じるという。


しかし私の代に、その季節の流れに完全に逆らうものが2人いた。
私と、同期のK。

一度水風呂始めた結果、どこでやめればいいのか分からなくなってしまった私は、なぜか11月頃まで水浴びを続けていた。
しかも「お湯を使ったら負け」「必ず頭からしっかり水を浴びる」という謎の自分ルールまで作って、外気温が10℃を下回るような夜に水浴びしていた。今思えばあの頃ちょっと馬鹿だった。
同期からは「ミズブリスト」などという謎の称号を授かったりしていた。


だが、更に上を行くものがいた。
それがKだ。
私がただの意地、というか惰性で水風呂を続けていたのに対し、彼女の目的は徹底して「風呂代の節約」だった。
長野ほどではないにしても、全国的にみれば寒い地域で知られる金沢において、ほぼ一年を通して水風呂に入り続けた猛者であった。
もちろん真冬にはお湯を持ち込んだり対策を取ってはいたが、それでも氷点下の夜にわずかな薬缶のお湯だけでちゃんと全身洗っていた。
1年のうち数回、大寒波が襲った日などに彼女が銭湯に現れようものなら、番台の店番バイトしてる寮生から「さっきKちゃん来たよ!」などと告知されるほど有名な存在となっていた。
そんな彼女に敬意を込め、彼女は「水風呂クイーン」と呼ばれていた。


そんな水風呂クイーンの彼女も、無事就職が決まったそうで(彼女は6年制だったため今春卒業)。元気に社会人やっていることだろう。
勉強もできて、自分の定めた目的のためにどこまでもストイックに、かつ楽しみながら頑張れる、尊敬できる子だった。いや水風呂に限らずね。


そんなKに、寮時代の秋の夜、一緒に水風呂浴びてた時に、「Kちゃんすごいね、私そんな真冬まで水風呂とかマネできんわ」って話したら「いやー軍曹の方がずごいよ。お湯使わずに頭から水をかぶる姿には水風呂の美学を感じるよ」と褒めてもらえたことは、今でも謎の自信に繋がっている。
何の話だこれ。