NRK活動報告書

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舞台版「千年女優」

まあ病気のネタばっかり引っ張るのもアレなので。
舞台版「千年女優」の感想。
半年近くも書く書く詐欺してたけどようやく書くよ!
もう千秋楽終わったしとりあえず再演の予定もないみたいだからネタバレ気にせず存分に書くよ!

TAKE IT EASY!×末満健一2011
舞台版「千年女優」@池袋シアターグリーン BIG TREE THEATER
原作:今敏 脚本・演出:末満健一 音楽:和田俊輔
出演:清水かおり 中村真利亜 前渕さなえ 山根千佳 立花明依

私が見たのは2月19日14時〜の公演。
故・今敏監督のアニメーション映画「千年女優」の舞台化作品です。
平沢進ライブの帰りにチラシをもらって「これは見に行かなくては!」と思って家帰ってからすぐにチケットぴあに電話したさ。


会場は映画館で、21美のシアター21くらいのキャパ。
ステージはせいぜい小学校の教室くらい。奥行きはそこそこあるけど幅は狭くて、正方形に近い感じかな。
私は5列目だったんだけど、映画館だから客席の傾斜が大きいお陰で前の人でよく見えないーとかそういうこともなく安心して見られた。
ステージからも近すぎず遠すぎず、ちょうどやや斜め上から見下ろす感じ。かなりいい席で見られました。

で、そのステージの床に、白い楕円が何重かに描かれていた。周囲にはドレープのかかった白いカーテンが5枚、等間隔に下げられていて、蓮の花の中に舞台があるような造りになっていた。
役者さんの衣装も蓮の花をイメージしたものになっていて、「千年女優」のテーマである「蓮」が前面に押し出されていました。




まずあらすじ↓

芸能界を引退して久しい伝説の大女優・藤原千代子は、自分の所属していた映画会社「銀映」の古い撮影所が老朽化によって取り壊されることについてのインタビューの依頼を承諾し、それまで一切受けなかった取材に30年ぶりに応じた。千代子のファンだった立花源也は、カメラマンの井田恭二と共にインタビュアーとして千代子の家を訪れるが、立花はインタビューの前に千代子に小さな箱を渡す。その中に入っていたのは、古めかしい鍵だった。そして鍵を手に取った千代子は、鍵を見つめながら小声で呟いた。

「一番大切なものを開ける鍵…」

少しずつ自分の過去を語りだす千代子。しかし千代子の話が進むにつれて、彼女の半生の記憶と映画の世界が段々と混じりあっていく…。(ウィキペディアより)

以上あらすじ。


で、感想。
原作見たことある人なら分かると思うけど、コレを舞台化って「どうやるの?」って思うでしょう。
私も原作見たときに「これはアニメーションでしかできない作品だな。どうやったってこれを実写でやることはできないわ」と妹と話したものです。


どうやら発言を撤回しなければならないようです。


ある意味、原作より面白かった。「すごい」の一言でした。

キャストは女性5人。小道具は椅子5脚のみ。
この劇、端役も含めると200役以上あるんですが。劇中でキャストがどんどん入れ替わっていく「入れ子式キャスティング」という手法を用いていました。「全員全役」ってこと。

主要なキャラクターにはそれぞれアイテムが割り当てられていて、
立花=帽子、井田=メガネ、大滝=マフラー、傷の男=杖(これはシーンに応じて銃や剣として使われる)といった具合。
キャストが変わるとアイテムが受け渡されて、帽子を被ったら立花、メガネをかけたら井田、という風にそれぞれの人物を視覚的に示す「符号」として作用していて、ともすれば「今『誰』が『誰』なのかわからない」という混乱を引き起こしてしまう手法の弱点をうまく補っていた。
(パンフレットによると詠子には「手袋」が当てられていたらしいが、未確認。)


そして唯一の小道具の「椅子」が実にいい仕事してる。これが各シーンによって車のハンドル、列車の座席、馬、応接間のソファ、宇宙船、瓦礫、テレビ…と姿を変えていく。
次々変わっていくシーンが、パントマイムと椅子だけで「見える」わけですよ。椅子すごい。いやすごいのは役者だけど。

その椅子の出し入れや、役者の移動の無駄のなさ。
途中での暗転や切り替えがあまりないのに、すごく自然な流れで次の場面へと移行していて、原作の疾走感をそのまま活かせていた。

役者陣の動きも完全に計算しつくされていて、寸分の狂いもなく立ち回っていた。
複数人で同時に台詞を言ったり、ステージ上を円環状に回りながら配役を切り替えたり(これは劇中多用されていた)、かなり精度が要求されるものだったので、かなりの練習量とチームワークが必要だろうなあと感じた。
稽古してるところ見てみたい。
劇中ほぼ全編を通して音楽が流れていたけど、もしかしたら動きを統制するための意味合いもあったのかな。


関西出身の劇団らしく、随所に笑いどころも挟まれていて、原作とはまた違ったテンポの良さがあった。

面白いことに、途中で「誰が誰なのか分からなくなる」という弱点を逆手に取って、意図的にストーリーを破綻させて劇を中断させ、観客に配役を選ばせてその配役で仕切りなおすという演出があった。まさかの楽屋落ち。
役者が一度「素」に戻ったことで、そこで一旦現実に引き戻されてしまったのは少し不満だったけど、配役をシャッフルするという試みは斬新。
役者陣の「全部できるんでどれでも大丈夫ですよ」「ホント全員できるんで」という言葉に驚いた。
だってつまり、自分がやるかどうかわからないところまで完全に役作りしておくってことで、5倍の練習量が必要なわけだよ。恐ろしい…!

「え、マジで!すごい!選べるの!?」とテンションヌ上がったんだが、私が見た回に選んだ客が工夫がなくて、意外性のないキャストを指名したお陰でせっかくのシャッフル演出があまり活かされなくて、それが残念だった。

しかしこのシーン、5人がそれぞれ役を演じるとして、5!=120通りの配役があるわけで。是非他の組み合わせでも見たい。

ちなみに私が見た回、途中で音響トラブルがあって一部無音のシーンがあったのですが。
終演後に演出の末満氏が出てきて「途中でお見苦しい部分があったお詫びに」と言って、このシャッフルシーンを、少女期の千代子役を(主に)演じていた前渕さなえさんが一人で五役全部やってみせるという「さなえ全部盛り」を見せてくれました。
前渕さんが一人で全部演じ分けていたこともすごかったが、それ以上に役者が変わることで各キャラクターの印象が面白いくらいに変わることに感動した。120回見たい。


劇中で全員が一度は千代子役を演じていたけど、前渕さんは一番ハマリ役だったかもしれない。小柄(つっても私より大きかった…)な容姿ながら、最もエネルギー溢れる千代子だった。
「鍵の君」を追って走るシーンはすごい。「そんなに走って大丈夫かいな」と思うほど走る走る。あの小さなステージの向こうに地平線が見えた。


そうそう、「鍵の君」の演出は良かった。
「鍵の君」は必ず2人以上(原則4人)で演じられて、4人で同じ動き、同じ台詞を同時にやっていた。最初「?」ってなったんだけど、「ああ、なるほど。そういうことか。」と
「鍵の君」は千代子の思い出の中にしか存在しない人で、当の千代子も「もう顔も思い出せない」ほど記憶が曖昧な人物なわけで。それでああして人を固定させない手法を取ったと。
そのせいで最後まで「鍵の君」のイメージがどうにも希薄なままでいる。かなり秀逸。

それとは対照的に千代子のイメージは強烈。
各シーンは1人ずつだけど、最初と最後は5人全員で千代子を演じているのだが。
5人の声が綺麗に重なって、女優として多くの人間を演じながら、たった1人だけを想って走り続けた「千代子」という女性を作り上げていた。
ラストの語りなんかもう何回も原作見てバッチリ台詞まで覚えてるはずなのにあれ何で泣いてるの私www



なんかもうまとまりまなく書き散らしてしまったが、とにかく面白かった。
ただ、この劇を原作知らない人が見て話についていけるか、少し気になるところ。
まあ原作も初見じゃよくわからないから問題ないか。
入れ子式キャスティング」というルールさえ飲み込めれば意外とスンナリ入り込めるかも。
劇の冒頭が割と展開ゆっくりめで丁寧に進むのはそのためだったのかな。


でもその若干の分かりづらさがあっても、ここ数年で一番面白い劇だった。
原作好きにもオススメするし、演劇好きな人には是非見てもらいたい。

帰りに物販でパンフレットと2009年の初演版のDVD売ってたから買ってきました。 ついでにサントラも。
興味ある!という方は言って下さいw
ちなみに原作の方も持ってますよwww


――あの人を追いかけてる私が好きなんだもの!